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第12部 |
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(7)脱・水俣病 「自由な企業」への模索進む
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チッソの分社化構想について語る杉浦正健前法務相。「分社化が具体化したら私の出番だ」=東京・永田町の議員会館 |
東京都港区の虎ノ門国際法律事務所。「会社分割」に関する解説書の著者である代表弁護士の後藤孝典氏(68)は「考えた人は相当頭がいい人ですね」とうなった。一九九九(平成十一)年にチッソが提案した、巨額の公的債務と事業活動を切り離す分社化構想を見ての感想だ。
後藤氏は、会社を二つに分ける分社化の専門家というだけではない。七〇年十一月、患者との直接交渉を拒むチッソに対し、株主として患者らがチッソの株主総会に乗り込んだ「一株株主運動」の提案者でもある。
その後藤氏は、チッソの分社化構想について「法的責任は現チッソに残して、新チッソは責任のないところで生き延びようということ。チッソの本心は、これ一回きりで公的債務と患者補償を支払って、おしまいにしたいということでしょう」と分析する。
後藤氏は、企業の価値を、将来の期待も含めて現金化する方法としては、分社化が一番優れているとみる。しかし、「分社化で、現チッソが得る資産は新チッソの株式だけ。株を売り尽くしたら経営破たんだ」。水俣病発生・拡大の法的責任を負った法人が、法的に消滅することを意味する。
さらに、患者が持つ補償債権は「不法行為債権」と呼ばれ、分社化する際に異議権を持つ。全員に分社化を通知し、異議を唱えた債権者には基本的に弁済しなければならない。「一度にばく大な資金が必要になり、チッソにとっては大きな障害。実現性は極めて困難だろう」と見切る。
ただ、後藤氏は「会社分割のシステムが国会レベルで登場したのが二〇〇〇年。その前年にこの構想を考えた人は、かなり米国法を勉強している」と推測してみせた。
米国で「チャプター・イレブン」と呼ばれる法律の条文がある。連邦破産法一一条だ。米国で会社経営再建のための法的手続きの一つで、破産とは違い、事業継続を前提とする点に特徴がある。
その手法を熟知する自民党水俣問題小委員会のメンバーがいる。委員長代理の杉浦正健前法相(72)=衆院愛知12区=だ。
杉浦氏は、チッソの後藤舜吉会長(72)と東大の同級生。後藤会長は、水俣病公式確認の翌五七年にチッソに入社。弁護士になっていた杉浦氏は、後藤氏に頼まれ、七三年に提起された熊本水俣病二次訴訟から、被告チッソの弁護人を引き受ける。
杉浦氏によると、チッソの分社化構想は「企業は生き物。債務をきちっと返せる仕組みをつくった上で、自由な普通の企業にするということは必要なんじゃないか」という発想から生まれた。破産ではなく、事業継続を前提としたチャプター・イレブンに近い考え方だ。
とはいえ、杉浦氏は「社会的土壌が違うから、チャプター・イレブンそのままは導入できない」とした上で、「患者補償の完遂はチッソの至上命題。株式の売却益に対する課税を繰り延べして、利益の一部を基金的なものに積んでおくような補償完遂のための安全弁が必要だ。そこに政治の出番がある」。
政治の場で、現行の法制、税制上の制約を解決して分社化を実現しつつ、患者補償の完遂を担保する仕組みもつくるという筋書き。ただ、「訴訟とか、どういう補償をするとか、今の流れが収まって、チッソの債務がほぼ確定しないと計画はできない」と杉浦氏。
分社化構想の向こうには、公的支援で生き延びてきた国策会社チッソが、水俣病の軛(くびき)から解き放たれようとする衝動が透けて見える。(亀井宏二)
熊本日日新聞2007年5月10日朝刊
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